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名古屋高等裁判所金沢支部 昭和25年(ネ)66号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は原判決を取消す被控訴人が昭和二十四年八月二十日附を以て為した控訴人の訴願を棄却する旨の判決並に訴外山田村農地委員会が別紙目録記載の農地に対し同年六月十二日附を以て樹立した遡及買収計画はいずれもこれを取消す訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とすとの判決を被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。控訴代理人は昭和二十三年三月十五日山田村農地委員会は別紙目録記載の農地につき買収計画を樹立したけれども控訴人と売渡申込人との間に和解の成立したことを理由に右農地委員会は同年五月十六日右買収計画を取消し右取消の決議は不服の申立なくして二箇月を経過し確定したにも拘らず右農地委員会が翌年六月十二日になつて本件再度の遡及買収を決議したのは一事不再理の原則に背き違法であると述べた外当事者双方の事実上の陳述は原判決事実摘示と同一であるからここに引用する。

(立証省略)

理由

昭和二十四年六月十二日訴外山田村農地委員会が控訴人所有の別紙目録記載の農地につき再度の遡及買収計画を樹立し控訴人が異議の申立を為したが却下せられ更に被控訴人に訴願をしたが同年八月二十日棄却せられ右棄却の裁決書が同年九月一日控訴人に送付せられたことは当事者間に争のないところである。

控訴人は右買収計画の基準日である昭和二十年十一月二十三日現在本件農地の所在する山田村に住所を有していたと主張するがその援用する甲第九、十号証によるもこれを認め難く、その他これを認めるに足る証拠なく却つて成立に争のない甲第九、十号証乙第一号証に証人西井謙吉の証言によれば控訴人は当時高岡市東下関千八百六十七番地にその家族と共に居住しその頃時々山田村へ往復したことがあるが山田村には住宅なく同村で生活必需物資の配給を受けた事実もなく同村の衆議院選挙人名簿にも登載されておらず同村の村民税も負担していなかつたことが明らかであるから昭和二十年十一月二十三日現在控訴人の住所は右山田村になかつたものというべく控訴人の主張は採用し難い。次に控訴人は昭和十九年に訴外吉江弥三郞に本件農地を賃貸したが昭和二十三年四月十六日右両者間に成立した和解により本件農地の賃貸借を合意解約し右解約に付富山県知事の許可があり被控訴人も右解約を適法且つ正当であると認めながら買収の対象となしたのは違法であると主張するからこの点を審究するに、当審証人宮島孫八の証言並に同証言により真正なりと認める甲第一号証成立に争のない甲第二乃至第四号証、第二十、二十一号証によれば本件農地を含む控訴人所有の土地につき昭和二十三年三月十五日山田村農地委員会は第一回の遡及及買収の計画を立てこれに対し控訴人は被控訴人に対し右買収計画取消の訴願を為したが同年四月十六日控訴人と右土地の売渡申込人である吉江弥三郞間に協定成立し右買収計画が取消されるときは吉江弥三郞は本件農地についての控訴人の自作を認めること、控訴人は控訴人所有の六畝十九歩の田並一畝四歩の原野を吉江弥三郞に公価で売渡し且つ山田村吉江字上島所在の見廻り五尺五寸の杉立木二本を無償で譲渡し直ちにこれを伐採の上引渡すこと、契約当事者に於て右の条項に違背するときは協定はその効力を失ふ旨約定し、同年四月十六日山田村農地委員会は右協定の成立を理由に右買収計画取消の決議を為したことが明らかである。然るに原審証人西井謙吉、吉江弥三郞(各第一、二回)坂上吉政の各証言によれば控訴人はその後吉江弥三郞の催告に応ぜず右立木の引渡を拒み前記協定の条項に違背したことが認められるから前記協定はその効力を失い吉江弥三郞の本件農地についての前記賃借権は依然存続するものというべく、右賃貸借が適法に解除されたことはこれを認むべき証拠がないから控訴人の本主張は理由がない。

次に控訴人の一事不再理の抗弁につき案ずるに本件農地に対する第一回の買収計画を昭和二十三年四月十六日山田村農地委員会が取消したのは前段認定の如く控訴人と吉江孫三郞間の協定の成立によるものなるところ前記協定の効力が喪失した以上その取消の理由も亦欠如することになるから本件農地につて昭和二十四年六月十二日山田地農地委員会が再度の遡及買収計画を樹立したことは正当の理由によるもので何等違法でなく本抗弁も採用できない。従つて控訴人の訴願を棄却した被控訴人の裁決は違法でなく原判決は結局相当であるから本件控訴を棄却することとし民事訴訟法第八十九条第九十五条を適用し主文の通り判決する。(昭和二六年五月一五日名古屋高等裁判所金沢支部)

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